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『こちら、発達障害の世界より』編集後記

エディターズブログ 2019.12.16 (月) 6:45 PM

 こんにちは、本の種出版・編集部の秋葉です。

 

 新レーベル『ミライのパスポ』の第1弾ともなる、難波寿和さんの単著『こちら、発達障害の世界より―生きやすく生きることを求めて』刊行にあたって、思うことを記しておきたいと思います。

 

 

 難波寿和さんの存在を初めて知ったのは、2016年のことだったと思います。

 

 学苑社さんから最初の単著『14歳からの発達障害サバイバルブック―発達障害者&支援者として伝えたいこと』が刊行された、前後の時期。

 

 その年に私がtwitterの担当を引き継ぎ、SNSに関して右も左も分からない状態で取り組み始めてから、気づけば難波さんのアカウントに辿り着いていました。

 

 (はっきりとは思い出せないのですが、おすすめユーザーの中に難波さんのアカウントが含まれていて、ツイートの内容に興味を抱きフォローしたところ、フォローバックしていただいた、という経緯だったかと思います)

 

 

 当事者であり支援者という立ち位置から、当時より難波さんは飾らない率直なメッセージを発信し続けています。

 

 その言葉の端々に感じ入るところがある一方で、私自身は必ずしも発達障害に対する深い見識を持ち合わせているわけではなく(本の種から刊行している発達障害をテーマとした書籍のほとんどは、もうひとりの編集者Kによるものです)、また今も昔も編集業務以外のタスクに追われてきたこともあって、難波さんに何かを依頼する、ということは思い浮かべられることもないまま、時間が過ぎていきました。

 

 

 それから幾星霜。

 

 2018年の4月に、双子のライオン堂の竹田信弥さんと知り合ったことがきっかけとなり、『ミライのパスポ』というレーベルを新たに立ち上げることを決め、著者を探し求める旅がゼロから始まります(レーベル名は、竹田さんに出版企画を打診してから最初の2か月程の間に、直感的に浮かんできたフレーズが、1年半経った今もそのままの形で残りました)。

 

 このレーベルでは、1人の人間として人生の壁を乗り越えてきた、何かしらのコア=「核」をもつ30代や40代の方々に、お声がけをしてきています。

 

 その過程で、ふと、難波さんの存在が思い出されました。そして、学苑社さんから刊行された最初の単著を改めて読み返して、過去の新聞記事などに眼を通していったときに、難波さん自身のことを掘り下げて書いていただく意義があるのでは、と感じました。

 

 

 最初の単著は、見開き2ページを1項目としてアドバイスを贈っていく実用書のイメージに近かったため、今回は、当事者であり支援者である立場からの自叙伝をつづってほしい。そのための、本当にざっくりとした章立てと構成案だけをメールでお送りして、2018年の秋から執筆が始まりました。

 

 そして、まずは第1章の序盤、それから第1章の原稿全体が送られてきたときに、率直に感じたことがあります。

 

 これは、原稿の形を大きく損ねることなく、1冊の本にまとめていくべきなのではないかと。難波さんが、文字通り、身と心を削り倒して生きてきた三十数年を、彼の選んだ言葉と文章の流れを出来る限り忠実に、本の形に成していくべきなのではないかと。

 

 そのため、本文全体の大きな流れは、難波さんが描いた当初の原稿時点から変わってはいません。難波さんが過去の自身の歩みと向き合い、悪戦苦闘しながら、紡ぎ出してくれた文章です。

 

 

 難波さんの代名詞とも言えるフレーズに、「生きやすく生きる」というものがあります。

 特定の誰かだけでなく、何かしらの生きづらさを抱える全ての人たちが、生きやすくなる社会にしていくために。

 

 この本を、当事者の方はもちろん、家族や支援者(そして『ミライのパスポ』というレーベルを特に届けていきたい10代や20代の若い世代の人たち)に向けて、送り出していきます。

 

 そして、この本やこのレーベルの本を手に取った人が、未来の自分自身と社会の可能性を広げていくための〈よすが〉となってくれればと思います。

 

 

 難波さんの世界、難波さんの歩んできた道を言葉以外の形で表していくうえで、お力添えいただいたのがイラストレーターのTokinさんです。

 

 解離性同一性障害と双極性障害の当事者として、生きづらさと向き合い続ける日々を送りながら、フリーペーパー『ゾンビ道場』でコミカルに自身の日常を伝え、透明感のある水彩画で独自の世界観を築かれている、すてきな作家さんです(個人的には、Tokinさんはイラストレーターである以上にアーティスト、と思っています)。

 

 合同出版さんから刊行された『実録 解離性障害のちぐはぐな日々』を読み、刊行を記念した個展が西荻窪の信愛書店さんで開かれていることを知って、足を運んだのが2019年2月のこと。

 

 

 そこでTokinさんの水彩画を初めて眼にしたときに、難波さんの世界とどこか通じるものを感じました。

 

 その時点では、まだ原稿執筆も途中段階だったのですが、(私の頭の中で勝手に)「これはTokinさんに描いていただくしかない、Tokinさん以外にふさわしい方はいない」という謎めいた思い込みが旋回し始めます。

 

 その日、たまたまTokinさんがその場にいらっしゃっていて(その前にtwitterでちょっとだけやりとりはした記憶が)、いずれこのような本の装画と本文イラストをお願いしたいと、立ち話でお伝えしました。

 

 そして原稿が全て揃った段階で、改めて依頼をし、出来上がったものが今、カバーと紙面にくっきりとした色彩をもたらしてくれています。

 

 

 

 さらに、この本を語るうえで欠かせないキーマンになったのが、難波さんの言葉と、Tokinさんの絵とをマッチングさせて、本書のブックデザインとレーベルのロゴまでを制作していただいた、オガワデザインの小川純さんです。

 

 当初依頼をした際に、猛進しがちな秋葉を冷静な視点から引き留めて、的確な形に導いてくれた「編集者の編集者」が、小川さんだったと言っても過言ではありません(これは本当です)。

 

 1冊の本を、どのような方向性のパッケージに収めていき、何を表のメッセージとして伝えていくべきかを教え諭された編集期間でした。

 

 

 結果的に、難波さん、Tokinさん、小川さんと、近い世代の方々とこの本を、そして新たなレーベルを出発させることができたこと。

 本当は、それが一番やりたかったことのような気もしています。

 

 

 長くなりましたが、最後に。

 私と難波さんは、リアルでは数えるほどの時間の中でしか、お話をしたことがありません。いまだに難波さんが活動拠点としている島根にも、足を運ぶことができず、申し訳ない気持ちでいます。

 

 それでも、出版に向けた執筆依頼を真っ直ぐに引き受けてくださり、1冊の作品を書き上げていただいた難波さんに、心から感謝の言葉を述べたいと思っています。

 

 だからこそ、ただ感謝を伝えて締めくくるのではなく、本が出来上がったところで満足するのではなく、『こちら、発達障害の世界より』という本を、しっかりと社会に向けて送り出していきます。